退職後、初めての県外へ。瀬戸大橋を越えて目指した冒険の島
仕事を辞めてから、気がつけば自宅で濃密な時間を過ごす日々が続いていました。そんななか、久しぶりに遠出をしようという計画が持ち上がりました。目的地は、兵庫県・淡路島にある「ニジゲンノモリ」。
今回の旅の最大の目的は、夫がこよなく愛する『ドラゴンクエスト』の世界を五感で堪能できるアトラクション、「ドラゴンクエストアイランド」を訪れることです。
せっかくの機会だからと、現在は県外で暮らしている息子に声をかけ、現地で合流することに。娘も加わり、久しぶりに家族4人が顔を揃える特別な旅となりました。
道中は、せっかくの四国ルートということで香川県を経由。本場のコシの強い讃岐うどんに舌鼓を打ち、お腹を満たしてから瀬戸大橋を渡って淡路島へと乗り込みました。
当日の天気は、あいにくの雨。空はどんよりと曇り、雨粒がポツポツと地面を叩いていましたが、久しぶりの家族旅行ということもあって、私たちのテンションは出発前から上がりっぱなしでした。傘をしっかりと差し、足元に気をつけながら、ゆっくりと大人の冒険へと歩みを進めました。
傘を差して、一列のパーティを組んで。雨でも夢中になれた理由
エリアの入り口に到着すると、まず目に飛び込んできたのは、お馴染みの巨大なスライムです。コロンとした愛らしいフォルムで出迎えてくれ、一気に物語の世界へと引き込まれます。
雨模様の天気ではありましたが、会場内は驚くほどたくさんの親子連れやカップルで賑わっていました。なかには、スライムのデザインがあしらわれた可愛らしい子供用のカッパを着込んで、小さな勇者さながらに一生懸命にお城や町を駆け回っているお子さんの姿もあり、見ているだけでこちらの心まで和みます。
実は私自身、ドラクエのゲーム内容を今ひとつ把握していません。夫は毎日「ドラクエウォーク」を欠かさずこなすほどの熱狂的なファンですが、私はこれまで画面を遠目に眺めるだけでした。
しかし、いざアトラクションが始まると、そんな知識不足はどこへやら。夫に言われるがままに専用の端末を操作し、クエストをこなしていくうちに、いつの間にか私の方が夢中になっていました。
広い敷地を、傘を差しながら歩く家族4人。ふと気がつくと、私たちはゲームでお馴染みの「キャラクターたちが一列に縦列を組んで歩く姿」そのままで移動していました。
誰からともなく、移動時のBGMを鼻歌でフフフンと歌い出し、顔を見合わせては笑い合う。雨のぬかるみすらも冒険のスパイスに変えながら、私たちはひとつずつ、確実にゲームを攻略していきました。

目の前に現れる、愛らしくも手強いモンスターたち
エリア内には、ゲームの世界からそのまま飛び出してきたかのようなリアルなモンスターたちが、あちらこちらに潜んでいました。本物に出会えたような感覚に胸が躍ります。
1. キラーパンサー
向かい合うとさすがに怖い敵キャラ。しかし、倒した後、「仲間にしてほしそうにこちらを見ている」のでスカウトすると喉を鳴らし途端にかわいくなるモンスター。乗って移動ができるようです。仲間になるなので、戦いの場では先制攻撃をしてくれる強くて頼もしい味方になるそうです。鋭い牙と美しい豹柄の毛並みを持つモンスター。ゲームの世界では獰猛な敵のはずですが、立体物として目の前に現れると、どこか猫のような愛嬌を感じてしまいます。「悪いキャラクターなのかな?」と思いつつも、ついつい頭を撫でてみたくなるような、不思議な可愛らしさがありました。

2. キラーマシン
こちらは一転して、無機質でメタリックな輝きを放つロボット型のモンスター。弓矢を構えた武骨な姿は格好良く、男の子心がくすぐられるのか、息子が興味深そうに見入っていました。雨の雫を浴びて鈍く光る姿が、妙にリアルで迫力満点です。

3. スライムタワー
緑、赤、青のスライムが三段にお餅のように重なった、なんともユニークなモンスター。コミカルでカラフルな佇まいは、雨の風景の中でもパッと目を引き、見ているだけでハッピーな気持ちにさせてくれます。

訳も分からず大勝利!? ラスボス戦でまさかの「第1位」
冒険のクライマックスは、パーティ全員で挑む大迫力のラスボス戦でした。
通された部屋には、私たちの家族だけでなく、他のグループの方々も含めて合計8人ほどが席についていました。大画面に映し出される強大なボスを前に、部屋全体の緊張感が高まります。
「とにかく、あの大きなボスを倒せばいいのね!」
ゲームのシステムや細かい内容はよく分かっていない私でしたが、目の前のボタンを「とにかくラスボスを倒すんだ!」という一念の元、ひたすらに、猛烈な勢いで連打し続けました。
バシバシと力任せにパンチを繰り出すような気持ちで、ただただ無我夢中で画面に向き合うこと数分。強敵を撃破した瞬間、画面に映し出された最終結果を見て、部屋が一瞬どよめきました。
なんと、訳の分かっていないはずの私が、並み居るプレイヤーを抑えて栄えある「第1位」に輝いてしまったのです。
システムを理解し、戦略的に戦っていたであろう他の方々に対して、「なんだか何も分かっていない私がひたすらパンチして勝っちゃって、すいません……」という申し訳ない気持ちが半分。それでも、やっぱり1番になれたことは素直に嬉しく、家族みんなで大笑いした最高の旅の思い出になりました。
結びに代えて。売店で見つめた、スライムの「曲線」
楽しかった冒険を終え、最後に向かった売店でのことです。
棚にずらりと並ぶスライムのぬいぐるみたちを眺めているうちに、私の中に不思議な感情が芽生え始めました。それまでは全く興味のなかったはずのドラクエですが、あの絶妙なぷっくりとした玉ねぎ型のフォルムが、どうにも気になって仕方がなくなってしまったのです。
「この綺麗な曲線は、一体どうやって布を裁断して、どう縫い合わせているんだろう?」
ぬいぐるみを文字通り「まじまじ」と全方位から見つめ、頭の中で型紙の設計図を組み立ててみたりして。
仕事を辞め、自分のために使える自由な時間ができた今だからこそ、「これを自分の手でイチから縫い上げて作ってみたら、あのドラクエ大好きな夫はどれほど喜んでくれるだろうか」という、新しいものづくりのアイデアが胸に浮かんだのです。あの独特なカーブを布で表現するのはなかなか難しそうですが、挑戦してみる価値は十分にありそうです。いつか時間ができたら、型紙を起こして「自家製スライム」作りに挑戦してみようと思います。
雨の中の散策は、地面のぬかるみもあって思った以上に体力を使い、心地よい疲労感が体に残りました。けれど、それ以上に、夫にとって深く感慨深い一日になったことが何よりの喜びです。
家族4人で一列になって歩いた雨の日の足音は、これからの暮らしをまた少し豊かに彩ってくれる、大切な宝物となりました。



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