退職して初めての遠出。山間の村で五感が震えた、いのちと自然の記録

🌿 自由な生活

この記事では、退職して初めて「どこかへ行きたい」と思えた日のことを振り返ります。
自由になった私の、最初の一コマです。

すがすがしい青空の下、新しい日常の始まり

退職して、初めて遠出した日のことを今でもよく覚えています。

それまでの私は、毎日のタスクや時間に追われ、心の自由をどこかに置き忘れたまま生きていたような気がします。そんな頑なだった心が、退職という節目を迎えてようやく「どこかへ行ってみたい」と、自然な欲求を外に向けて放ち始めました。

その記念すべき最初の一歩は、朝5時半の起床から始まりました。向かったのは、自宅から車を約1時間半走らせた場所にある、緑深い山間の村。目的は、絶好のタケノコ掘り日和のなかで開催される『山を喰う会』という名の地域イベントです。

車を降りると、そこには澄み切った空気ときれいな青空が広がっていました。足元を見れば、都会のコンクリートの隙間ではなく、大自然のなかでありのままに咲く名もなき花たち。その一つひとつを見つめているだけで、こわばっていた心がじんわりと解きほぐされ、癒されていくのを感じました。

本当にいいお天気。済んだ空気ときれいな青空。

自然に咲く花も素敵ですね。一つ一つに癒されます。

初めてのタケノコ掘りと、地元の「生きる力」

実は、私はこれまでの人生でタケノコ掘りを経験したことが一度もありませんでした。特別に都会生まれというわけではないのですが、これまではもっぱら「食べる専門」で、自らの手で収穫する機会には恵まれなかったんです。

今回の企画には、もともと娘が裏方スタッフとして参加することになり、私も同行させてもらう形で滑り込みました。現地に着いてみると、内容は想像以上に盛りだくさん。タケノコ掘りだけでなく、竹を切ってお箸や器を手作りしたり、山菜の天ぷらを味わったり、さらには一人芝居の演劇まで用意されているという、五感をフルに使うプログラムでした。

そんな中、前日に急遽イノシシが手に入ったとのことで、裏メニューとして「イノシシの解体プラン」が追加されるという一幕も。 目の前で繰り広げられる自然のリアルな営みに、「すごいなぁ……」と地元の皆さんのたくましく生きる力にただただ感心するばかり。

とはいえ、さすがに解体を直視する勇気は出ず、私たちは少し先にある竹藪へと足を向けました。急斜面にひょっこりと頭を出しているタケノコを見つけ、地元の方に指導していただきながら、いざクワを握ります。

土の奥深くにどっしりと埋まっているタケノコと対峙し、急斜面で踏ん張る足に力を込めます。想像以上の重労働に息を切らせながらも、自分の手で掘り起こした瞬間の感動はひとしおでした。大小さまざまな自然の恵みを手にし、地球が育んだ生命の力強さに心からの感謝が湧き上がってきました。

こんな風に埋まってるんですね。一つ一つに感動。

急斜面で踏ん張るのが大変だった~!

収穫~!!大小頂きました。自然の恵みに感謝です。

ヤギは「メエエ~」とは鳴かず、「ギャッッ」と鳴くようです。知らなかったな。

竹を削り、羽釜のご飯と山菜の天ぷらを食す

ひと汗かいた後は、竹を使った食器作りの時間です。参加していた子どもたちは、大人顔負けの器用さでのこぎりや金槌を使いこなし、自分だけのお箸や器を形にしていきます。

その作業の裏側で、パチパチと薪がはぜる心地よい音が響いていました。地元の皆さんが羽釜でツヤツヤに炊き上げてくれたご飯に、揚げたての山菜の天ぷらを贅沢にのせた「山菜天ぷら丼」の完成です。

天ぷらの衣がサクサクと小気味よい音を立てます。「これは何の葉っぱだろう?」と首を傾げながらも、口いっぱいに広がるほろ苦さと自然の旨味に、ただただ箸が進みます。自然の中でいただく素朴で贅沢なごちそうは、体中の細胞が喜ぶような格別のおいしさでした。

お腹が満たされると、心地よい疲労感とともに強烈な眠気が押し寄せてきました。帰りの運転のことも考え、私は一足先に車へと戻り、少しだけ仮眠をとることにしました。

しばらくすると遠くで楽しそうな声が。起き上がり窓の外に目を向けると、娘が子どもたちに囲まれて楽しそうにシャボン玉で遊んでいます。後から話を聞くと、「好きな人いるの?」「彼氏いるの?」と子ども特有の容赦ない質問攻めに合っていたのだとか。捕まえたダンゴムシを手のひらに乗せて、愛おしそうに愛でている女の子の姿もあったそうです。

のびのびと、ありのままに、素直で元気に生きている子どもたちの姿。そのまぶしさに、どうかこのまま真っ直ぐ大きくなってほしいなと、温かい気持ちで見守っていました。

竹でお箸や器などの食器づくり。
子供たちは本当に器用にのこぎりや金槌を使います。

食器づくりの間に出来上がっていた山菜の天ぷら。おいしそうです。

出来上がった山菜の天ぷら丼!おいしかったです。ご飯は羽釜で炊いたそうですよ~!

これも山菜?何の葉っぱ?何だろう?サクサクでおいしかったです。

生きとし生けるものを見つめ、次のステージへ

イベントの締めくくりには、森のステージで一人芝居が行われました。車内から降りるタイミングを逃してしまった私は、少し離れた車の中で耳を澄ませて、劇中の一言一言を聴いていました。

静かな山間に響き渡る、張りがあってよく通るそのお声は、実力派俳優の安田顕さんを彷彿とさせる素晴らしい表現力でした。声だけで観客を物語に引き込むプロフェッショナルな姿勢に、車の中で静かに胸を打たれていました。

ふと周囲に目を凝らせば、そこにはさまざまな「いのち」の形がありました。 悠然と構える緑の山々。同時に仲良く用を足しているヤギの親子の姿。皮を剥がれ、肉となってぶら下がった状態のイノシシのアキレス腱。そして、ものすごいスピードで地面を這っていく毛虫の生命力。

生きとし生けるものの生々しい営みをマジマジと見つめているうちに、不思議と「生かされている自分自身」の存在が浮き彫りになっていくのを感じました。

時間に追われる日々から解放され、ゆったりと流れる時間の中で自然の恵みをダイナミックに味わった一日。それは、これからの生き方を模索する私にとって、何物にも代えがたい大切な時間となりました。

これからの私の次のステージは、まだ明確な形にはなっておらず、模索の霧の中にあります。しかし、この日感じた自然のエネルギーと、生かされていることへの感謝を胸に、かすかな希望を持って一歩ずつ前を向いて歩いていこう。そんな風に思えるようになった、自由な私の最初の一コマでした。

貴重な体験をさせてくださった主催者の皆さんに、心からの感謝を込めて。

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