一見すると「子供向けの化学の本」と感じる方も多いこの絵本。
でも実は、知識を教えるための本ではありません。酸素や脳、五感を入り口にして、「感じて、考えるきっかけ」を届けたい——そんな想いを込めて作った知育絵本です。
子どもたち、そして一緒に読む大人の方へ向けた「大切なメッセージ」が隠されています。
この記事では、知育絵本『ひらけ!ごかんのとびら おっくんとブレインくんのふしぎなぼうけん』の誕生秘話と、作品に込めたメッセージを作者自身がお伝えします。
1. 絵本が苦手だった私が、物語を書き始めた理由
私は、幼少期の頃「絵本」を読んでもらった記憶がありません。
自営業だった実家はとても忙しく、末娘だった私はどちらかというと放置されて育ったようなところがあります。お古のリカちゃん人形に語りかけ、新聞紙で洋服を作っているような内向的な子供でした。小学校に入ってからは足踏みミシンでりかちゃんのスカートを作ったりしながら一人で時間を過ごしていたのを記憶しています。活字に触れだしたのは小学校に入ってから。なので学校の勉強にはついていけずとても苦労したのを記憶しています。
「なんで?」を五感で紐解いてきた幼少期
子どもの頃って、誰しも「なんで?どうして?」と思うことがありますよね。でも私の周りには、その「なんで?」に対して明確な答えをくれる大人がずっといませんでした。
そのため、私は「自分の五感」だけを頼りに、「これはこういうことだから、こうなんじゃないかな」と自分なりに結論を出して育ってきたんです。
高校生までそんな状態が続き、大学に入ってからようやく、分厚い広辞苑などを自分でめくりながら、「この言葉はこういう意味なんだな」と一つずつ紐解いて自分の中に落とし込んでいきました。
そんな経験があるからこそ、私にとって「想像」とは生きていくうえで必要なことであり、年を重ねるにつれて、そのイメージを形にしたいという欲求が「創造」に変わっていったのだと思います。
自由でありたいし、色々なことを学んで挑戦し、自分の表現を通して「誰かの人生の役に立つものを作りたい」――。そんな想いを、ずっと心の根底に抱き続けていました。
2. お風呂場での閃きと「アテレコ」の読み聞かせ
ある時、お風呂場で夫と話をしていた時のことです。
「私は昔から五感をすごく大事にしているんだよね」という話から、「五感をテーマにした面白い本が作れたらいいかもしれないね」と、ふと思い浮かびました。
正解のない、我が家だけの読み聞かせ
実は、私自身にも3人の子どもがいますが、世間にある「字が書いてある絵本」をまともに読んであげるのが少し苦手でした。
そこで私がやっていたのが、「文字のない、絵だけの絵本」に対して、その時自分が感じた感情をその場で『アテレコ』しながら読むという方法です。
これが子どもたちに大ウケして、何度も「もう一回読んで!」とせがまれたものでした。
今では子どもたちも全員成人し、自分の考えのもとに人生を切り開いていく、意欲に満ちた大人に育ってくれました。振り返ると「もっと活字を読ませておけばよかったかな」と後悔することもありますが、あの「正解を押し付けず、親子で感性を生かし合った絵本の時間」は、決して間違いではなかったと感じています。
「あの時のアテレコのような、自分で感じて考える絵本を作ればいいんだ」
そう閃いた私は、家にあったカレンダーを袋とじにして、最初のざっくりとしたラフ(下書き)を書き始めました。これが『ひらけ!ごかんのとびら おっくんとブレインくんのふしぎなぼうけん』の本当の始まりです。
3. キャラクターに投影した「自分自身」とこだわりのデザイン
キャラクターの設定は、驚くほどスムーズに決まりました。
主人公「おっくん」は、好奇心旺盛な私の分身
主人公の「おっくん」は、空気の中にある「酸素」のキャラクターです。 性格はとにかく好奇心旺盛で、「なんで?どうして?」と何にでも疑問を持ちます。
実はこのおっくん、幼少期に何にでも疑問を持っていた「私自身」を投影している「なんでちゃん」なんです。
- 呼吸ができるのって、なんで?
- 目が見えるのって、どうして?
- 匂いや味がわかるのって、なんで?
- 触って冷たい、熱いって感じるのはどうして?
大人が「当たり前」だと見過ごしてしまう人間の身体の機能に対して、「これって当たり前じゃないよね?」とフォーカスを当てる存在として、おっくんを作りました。

お風呂上りに忘れないようにと慌てて書いた生まれたてのおっくん。この時は顔をO2の「O」に見立て、髪の毛で「2」を表現。書いてる途中で変だなと思いお腹にO2と描きこんだ。
ガイド役「ブレインくん」の誕生とデザインの秘密
おっくんが体の中を巡り、脳の中で最初に出会うのが、脳の妖精である「ブレインくん」です。
彼は「考えること」を担当するガイド役なので、きっちりしていて、優しくて、真面目で落ち着いている、知識豊富なキャラクターにしました。
デザインにもたくさんのこだわりを詰め込んでいます。
- 髪型: 脳のシワや溝を表現するために、「くるくる天然パーマ」にしました。
- 右手のステッキ: ただのステッキではなく、神経細胞である「ニューロン」を光るスティックにして持たせました。これが、五感の扉を通っていくためのキラキラ輝く明かりになります。
ちなみに、最初は「リトルブレインくん」という名前にして、服にもイニシャルの「L」を入れていたのですが、出版や販売を見据えたときに言葉の響きをより精査し、現在の「ブレインくん(B)」へと変更したという裏話もあります。

おっくんの後に初めて書いたブレインくん。とても貴重な一枚。
4. 「解説する本」から「伴走する本」への大きな方向転換
最初は、物知りなブレインくんがおっくんに色々教えていく「解説系」のストーリーを考えていました。
まずは家にあったカレンダーの裏紙にざっくりとした仮原稿を書き、それを具体的にパソコンのデータへと落とし込んでいきました。ところが、伝えたい内容をどんどん当てはめていくうちに、大きな問題にぶつかってしまったんです。
気づけば文字数が膨大になり、なんと「70ページ以上」の大作になっていました。
完成した原稿を家族に見せると、「ちょっと長すぎるんじゃない?これだと子どもが途中で飽きちゃうよ」と言われ、「確かにそうだな……」とハッとさせられました。
対象年齢を広げ、内容をシンプルに
「5歳くらいの子どもたちが楽しく読めるようにするには、どうすればいいだろう?」
そう考えた私は、小難しく説明するのを思い切ってやめ、文章を極限までそぎ落とす作業を始めました。そして、本の役割をガラリと変えたんです。
- 5歳〜就学前の小さな子: 理屈ではなく、五感の冒険を「直感的に感じる」絵本
- 8歳〜9歳(小学校低学年)の子: 漢字(ひらがなのルビ付き)を交えることで、自分の頭で「考えるきっかけ」にする絵本
それに伴い、ブレインくんの役割も「答えを教える解説役」から、おっくんの隣でずっと一緒に寄り添う「伴走者」へと変えました。これが一番苦労しましたが、一番大切な方向転換でした。
5. 私が本当に伝えたかった、化学の先にある「多様性」
この絵本を読んだ方からは、よく「可愛い化学の本だね」と言われます。もちろんキャラクターを可愛いと言ってもらえるのはすごく嬉しいのですが、私が本当に伝えたかったのは、実は「化学の知識」ではありません。
私がこの絵本を通して伝えたかったのは、「当たり前は、当たり前じゃない」ということです。
私たちが息をしていること、目が見えること、耳が聞こえること、匂いを嗅げること、味わえること、触って温かさを感じること。これらはすべて、当たり前に備わっている機能ではなく、脳が働いてくれているからこそできる「奇跡」のようなものです。
自己理解から、他者への尊重(多様性)へ
そして、もう一つ大切なメッセージがあります。それは「感じ方は、人それぞれ違う」ということです。
「自分がこう感じたからといって、周りの友達も同じように感じているとは限らない」
そこに気づくことができれば、まずは「自分はこう感じるんだ(自己理解・自己肯定感)」を大切にできるようになります。同時に、「あのコはそう感じるんだな(他者理解)」と、相手を思いやる心が育ちます。
心理学の巨匠であるピアジェやエリクソンの発達心理学の考えもベースにありますが、絵本の中ではあえて難しい深掘りはしていません。まずは理屈抜きで、世界には色んな感じ方があるという「視野」を広げてほしかったんです。
お互いの違いを認め、ありのままを理解すること。それこそが、私が一番大切にしている「自分も他者も大切にする(相互尊重・多様性)」へと繋がっていくと信じています。
おわりに:大人も子どもも、一緒に「こころ」を育む絵本として
この絵本は、子どもたちに向けて作りましたが、実は「毎日を一生懸命がんばっている親御さんや大人の方」にも、そっと寄り添えるような作品にしたいという願いを込めています。
子育てや日々の生活の中で、子どもから「これってなんで?」と聞かれたとき、ふと答えに詰まってしまうことはありませんか?ネットで検索すればすぐに出てくるような「正しい知識」も素敵ですが、時には大人も子どもと一緒に「なんでだろうねぇ」と不思議がってみる。そんな時間が、お互いの心をとても豊かにしてくれると思うんです。
文字数をギリギリまで減らしてシンプルにしたからこそ、この絵本にはたくさんの「余白」があります。
「あなたなら、どう思う?」
「何をイメージした?」
正解はありません。この絵本の余白を通して、親子の間に温かい会話や、あなただけの優しい物語が生まれたら、著者としてこれほど嬉しいことはありません。
当たり前の日常にある奇跡に、ぜひおっくんたちと一緒に気づきに行ってみてくださいね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!



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